第22回小諸・藤村文学賞 中学生の部最優秀賞作品

公開日 2016年07月06日

最終更新日 2016年07月06日

第22回小諸・藤村文学賞 中学生の部最優秀賞

 

                    

 

戦争のない世界へ

                                                          

 

 

                   千曲市立屋代中学校三年  田中ゆめの

 

 戦後七十年。

 私はこの言葉を、今年の夏一番よく耳にした気がする。戦争はいけない、とみんな口をそろえて言うし、私自身もそうは思うけれど、心のどこかに「戦争のある時代に生まれなくてよかった」と、他人事のように思ってしまっている自分がいる。戦争に関する番組などを見て、「戦争って怖いな」と思うけれど、私は本当に戦争の怖さを知っているわけではない。

 夏休み前、文化祭でのクラス合唱の曲が決まり、私のクラスは、「初心のうた」という曲を歌うことになった。発表された後、私は友達とこんな会話をした。

「うれしいね。初心のうたに決まって」

「うん。いいよね、あの曲。あたし、あのメロディ好き」

「でもさ、歌詞の意味全然わかんないよね」

「ああ、あたしもー」

「初心のうた」の歌詞は、平仮名で書かれているので、意味が分かりにくい。でもその日、気がついたことがあった。「ころしやつくりかりたてる」という歌詞は、漢字に変換すると、「殺し屋作り駆り立てる」となることだ。私は、こんなに怖い歌だったのか、と少し驚いた。そこで、家に帰って調べてみると、「初心のうた」は反戦歌だったのだ。

 数日後、クラスの何人かの間で、ちょうどその話題で盛り上がっていた。

「ねえ、このころしやって、あの殺し屋のこと?」

一人が聞いた。するともう一人が、

「ちがうっしょ」

と、軽く言った。結局、その「ちがうっしょ」の一言でその話題は片付けられ、みんなが、「殺し屋」ではないんだ、と信じてしまっていた。

その時私は、

「ちがうよ。これは「殺し屋」で、この曲は、反戦歌なんだよ。だから、そんな軽い気持ちで歌っちゃだめだよ」

と言いたかったけど、この空気の中で、そんな話をしても誰も相手にしてくれないだろうと思い、言えなかった。

 そんなことがあってから、私たちは夏休みに入った。休み中、私は「初心のうた」のことを通して、真剣に戦争のことを知りたくて、長野市松代にある象山地下壕に行った。太平洋戦争で、日本が負ける九か月前から朝鮮人や日本人に、極秘に掘らせたと聞いた。その人たちは、コーリャンなどの粗末な食べ物を食べ、毎日十時間前後の、過酷で危険な仕事をさせられたらしい。地下壕の岩には、掘るのに使った「削岩用ロッド」がつきささっていた。私は、象山地下壕の近くにある施設で、その削岩用ロッドを持たせてもらった。とても重くて、長い時間は持っていられないほどだった。岩盤も固く、こんなのを九か月で十キロメートルも掘るなんて信じられなかった。

 地下壕に入ってみると、空気がひんやりしていて、寒いほど冷たかった。その冷たさは、地下だからというだけではなく、戦争をする人の心の冷たさが表れているように感じた。

 戦争の時代を知らない私の頭には、「働いていた人たちは、戦争だから仕方ないと思っていたのかな?」「でも、何で戦争のために罪のない人たちが、苦しい思いをして働くの?」「何で平和を願う人たちが、戦争のために死んでいくの?」本当に、そんな疑問ばかりが、グルグル回った。そこで働かされていた人たちの本当の気持ちは、私には分からないかもしれないけれど、平和を願う気持ちは、みんな一緒だったはずだ。今、この平和な時代を生きている私たちも、みんな「戦争なんかしたくない」と思っている。でも最近、それが揺らいでいる。集団的自衛権が、可決されるかもしれないこと。今まであれほど日本では、戦争の怖さについて語られてきたにも関わらず、なぜそういった話が出てきてしまうのか、私には分からない。私はずっと、戦争をしたいと思っている人なんて、絶対にいないはずだと信じてきた。まさか、日本でそんな話が出てきてしまうなんて、思ってもみなかった。またこの国で戦争が起こるかもしれないのかと考えると、私は不安でたまらない。これからどんどん、戦争を体験した人は減っていき、戦争の話は、あまり聞けなくなるかもしれない。でも、「平和の大切さ」というのは、これから先、百年経っても二百年経っても、その後もずっと人の心から消えないようにしなければならない、と私は思う。「初心のうた」には、「ひとつひとつまきなおそうまちやむらではぐるまを」という歌詞がある。これは、歯車の歯が食い違って間違った方へ回ってしまうと、戦争が起こってしまう。だから、正しい方へまき直し、戦争をなくそうというメッセージが、込められているのではないか。

私は、戦後七十年というこの年に、クラスみんなで「初心のうた」を通して、戦争は何があっても絶対にしてはいけないんだ、という事をたくさんの人の心に伝えたい。今年の夏、こんな体験をした私は、今までとは違う。戦争を「他人事」なんて思ってはいない。そして、私は、心から思う。この平和な青い空は、私たちが守っていかなければならない、と。

                                           (長野県千曲市)

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