第17回小諸・藤村文学賞 中学生の部最優秀賞

公開日 2013年12月02日

最終更新日 2013年12月02日

 

チンチン電車道中記

学校法人四天王寺学園四天王寺中学校二年

橋本(たま)()

 阪堺電車ことチンチン電車のことを御存知でしょうか。大阪の天王寺と堺の浜寺とを結ぶ一両編成の路面電車のことです。大阪に住んでいる人でも余りご存じでない方もたくさんいらっしゃいます。大阪の外にお住まいの方で知っておられる方はいないと言っても過言ではないでしょう。私はチン電を使って通学しています。ラッシュの時間ですと皆さん携帯電話をいじったりしてはりますが、空いている時に乗り合わせますとお隣の人に話しかけてもろたり、窓からちょうちょが入ってきたり。人と人との触れ合い、の一言では片付けられへんような、なかなかええ電車です。これから、チン電の中で起こったおもろい話をちょこっとだけ喋らしてもらいます。

 一つ目のお話です。テストが終わった春の昼下がり。天王寺の駅で停車しておったチン電の一番後ろの端っこの特等席で

(テスト終わりや~)

と私がまどろんでおりますと、帽子被ったオバちゃんに

「あんたの隣に座ることにしたわ」

と話しかけられました。オバちゃんはその後鳥居前の駅で降りていかはりましたけど、その間何にも喋りませんでした。ええお天気ですなあ、これからどちらへ、そんな会話は一つもありませんでした。けど、オバちゃんの言うてくれた言葉は未だ頭に残っています。他の人の隣に座ることも考えたけど、あんたの隣に座ってみることにしたわ。そんなように言われた気がして、ええ思い出になってます。

 二つ目のお話です。終業式を目前に控え、クラブ活動で遅なってしもた冬の夕暮れ。昨日もうちょい荷物持って帰りゃよかったなあと考えながら、満員電車に駆け込みました。

不意に、

「あんたのキーホルダーええやつやなあ」

と声を掛けられました。私が立ってた所のすぐ前に、五歳か六歳ぐらいの男のお孫さんとおとなしそうな御主人と一緒に座ってはった割と大柄なオバちゃんです。キーホルダーというのは、私が学生鞄にぶら下げている桜色の猫のキーホルダーのこと。

「ウチのおかんに買うてもらいましてん。私のお気に入りですわ」

と話が弾みます。

「お姉ちゃんのお気に入りのネコちゃんやで。ほら見てみい」

とお孫さんにも話を振ります。僕は小さく頷いてキーホルダーをいじっていました。そのうち電車が空いてきて、御主人の隣が空きますと、

「あんた荷物重いやろ。そこ座りい。そんな小さい体でホンマに・・・・・・」

と座らせてもらいました。日本中では下品やの図々しいやのと忌み嫌われてる大阪のオバちゃん。そやけど、日本全国津々浦々でオバちゃんと同じようなことは誰でもしてる。同じモン買うんやったら安い所で買うし、人の噂すんのんが好きなんかて一緒。雑誌には芸能人や政治家の噂が山程載ってるし、それを買うて読んでるんも同じことや。それよりもちょっと困ってる子がおったらお節介でも声掛けたげる、そういうような親切心を見倣うていかなアカンのとちゃうやろか。ちょっぴり考えさせられた出来事です。

 オバちゃんだけがパワーを持ってるワケではありません。三つ目のお話は若い運転手さんによる出来事です。朝の通勤ラッシュで寿司どころか山盛りの栗きんとんを重箱に無理矢理押し込んだような感じです。電車が阿倍野筋のど真ん中を走っていた時、同じように阿倍野筋を走っていたトラック二台の運転手が大ゲンカをしていたんです。チン電の線路の上にトラックを置き去りにし車道の真ん中でつかみ合い。もちろん電車は通れません。

(どないなるんかな)

と思いつつ運転手さんを見ていると、電車を降りて現場に行き、何やらお伺いを立てている感じです。二、三分もすると彼等はトラックに乗り込み走り去っていきました。ケンカも無事終了し、チン電も機嫌良く阿倍野の駅に到着。頭にタオルを巻いて作業衣と地下足袋はいたトラックのおっちゃん等のケンカを若い運転手さんが止めに入る。他の電車使っていたら見る事の出来へんような厄介でけったいな光景。警察呼んで来るのもええけど、こんなケンカの止め方もあるんやなあ。その日運転手さんに運賃を払うお客さんの

「有難うございました」

という声が、心なしか明るく聴こえたのは、私だけではないような気がします。

 前から数えて四番目、後ろから数えて一番目、最後のお話でございます。用事で電車に乗った時のこと。鳥居前の駅から一人のお婆さんが乗ってこられました。なかなかシャキシャキした方で私の隣に腰掛けられました。途中の駅で野球部でしょうか、中学生の男の子達がドッと乗車した時、お婆さんは、

「にぎやかですねえ」

と、おっしゃいました。

会話はそこから始まりました。お婆さんの二人のお孫さんは中学生と高校生の男の子。どちらも名の知れた進学校に通ってはります。スポーツが得意でバスケットボールとサッカーをしているとのこと。二人の写真を携帯電話の待ち受け画面にされており、私も見せてもらいました。

「運動ばっかりで勉強がねえ」

と言いつつ、時々お小遣いをねだりに来る彼らのことを可愛がり誇りにしてはりました。謙虚が美徳とされている日本やけど自慢話の花も綺麗なんとちゃうやろか。近々タンポポくらいのを二、三輪咲かせてみよう、と思っています。

 そろそろお別れの頃合です。チン電の出来事はこれだけやない。言いきれんかった話の分は自分で体験して下さい。チンチン電に乗ってみてな。どんな時でもええさかいにな。

(無断転載を禁じます)


お問い合わせ

教育委員会 生涯学習課
TEL:0267-22-1700
FAX:0267-23-8857
備考:メール送信時はE-Mailアドレスの@(アットマーク)を半角@に変更してから送信ください。また、匿名のメールにはお答えできませんので、ご了承ください。