第16回小諸・藤村文学賞 中学生の部最優秀賞

公開日 2013年12月02日

最終更新日 2013年12月02日

四季それぞれのうちの庭

信州大学教育学部附属長野中学校三年

大 橋 成 美

 夏休みのおわり、夕方。かゆい!うっかり半袖短パンのままで居眠りをしてしまいました。もも、腕、手の指まで!このかゆさはきっとあの、しましまのヤブカにちがいありません。血を吸うのはかまわないのに、何でわざわざこんなかゆみ物質のおみやげをくれるのだろう?さっき宿題をやっているときにはいなかったし、ちゃんと網戸も閉まっているのに何でいるのだろう?かゆみ止めの軟膏をぬりながら私は、にくいカの野郎(正しくは女郎?血を吸うカは雌だけだそうです)の進入経路を探します。私の一番近くにいたのは、のんきに寝ている愛犬ルナ。あとは続きの部屋で母が、夕方のテレビドラマを見ながら洗濯物をたたんでいます。洗濯物がバリバリに乾いているところをみると、庭に干していたもののようです。フムフム、なるほど。なぞが解けました。母が洗濯物をよく払わずに取り込んだせいで、庭に生息しているカが洗濯物にくっついて家に入ってきたのでしょう。なんといっても、家のお庭はジャングルです。田んぼと畑に囲まれている我が家は、日当たりがとてもいいせいか、植物が妙に元気に育ちます。私の腰まである赤紫蘇に青紫蘇、茄子に陸蓮根。二メートル位ある玉蜀黍に蕃茄と胡瓜、もっと背の高い向日葵。実のならない苺。雑草と化した薄荷、正真正銘雑草の狗尾草。そんなぎっしりの猫の額の庭に、どこからか湧いて出てくる者たちがいます。害虫アブラムシ。それを目当てにアリンコ、テントウムシ。ピョンピョン跳ねるバッタ、カエル、カマキリ。クモの巣にはカやハエだけではなく、家族みんなが引っ掛かります。チョウチョウはひらひらと卵を産みに。卵からかえったイモムシ、ケムシは鳥を呼びます。スズメ、ノバト、なぜかグエ~とひどい鳴き声の名前も知らないかわいい鳥。イモムシ退治には私も参戦。トングを武器に立ち向かいます。抜かれて枯れてしまった雑草をめくってみると、ダンゴムシやミミズが。その下にはふかふかの腐葉土。こんなちっぽけな命の吹き溜まりですが、いつまで眺めていても飽きることがありません。日常のクサクサした気持ちも、一生懸命生きているこの命たちのサイクルに、クルクルと巻き取られて土にかえっていくようです。

 夏休みが終わり、私の学校は前期後半。盛りだくさんの学校行事に追われていくうちに、葉の濃い緑色に埋まっていた窓の外が、近所の風景もちゃんと見えるようになります。いつの間にか葉は枯れ、落ちて茶色いじゅうたんに。眠る前の子守唄も、カエルの歌から虫の声に変わっていきます。鳥たちの標的も、虫から向日葵の種や柿の実に代わっていきます。カマキリがいなくなり、代わりに、小人の帽子のような卵を見つけます。この卵はカマキリの野生の勘で、雪に埋もれない場所に産むそうで、低い位置で見つけるとその冬は雪があまり降らず、高い位置だと高く積もると言われています。最近は、あまり当てにならないのですが。さて、これを見つけると、もうすぐ私の一番大好きな雪の季節がやってきます。

 冬。はっと気がつくと、いやに窓の外が明るいことがあります。雪明かりです。月が出ている夜は、懐中電灯も持たずに、愛犬と散歩に行けるくらいです。私の住んでいる長野は雪が降ります。雪が積もって一面真っ白になった庭に、一番に出て行き、足跡をつけるのは快感!今でもゆきだるまを作り始めると、時間を忘れるくらい夢中になります。ほんの数時間で、何もかも隠してしまう冷たくて白い雪。その下で死んでしまうことなく、じっと春を待つ植物や虫たちがいることを考えると、いっそう、この真っ白で小さな庭の世界が、すばらしく美しく目に映るのです。

 地球温暖化の影響か、三月になると、もう雪はほとんど消えてしまいます。それと同時に顔を見せる、大犬の陰嚢の小さくて青い花。不思議。じゅうたんを敷いていたように、ずっと雪の下で咲いていたのでしょうか。そして、その次に出てくるのは、この家の前の住人が植えたであろう、ずっとほったらかしの可憐な水仙。花が咲いたら、いよいよ春です。

 雪と霜柱にさらされてぐったりしていた玉葱の苗が、元気に立ち上がってきます。隠元の伸びてくる頃、一番初めに出会うのはみんなのアイドル(?)、テントウムシ。この子がいるということは、あの気持ち悪いぷちぷちした虫もいるということ。怖いもの見たさにちょっと探してみたくなります。チューリップが終わる頃には、雑草も生い茂っています。そして信じられないくらい小さなカマキリと、それに合わせて小さなバッタを見つけると、命いっぱいの夏のエネルギーをすぐそこに感じます。

 私はうちの庭が好きです。庭で目をこらし、耳をすませると、ディープな四季を感じるのです(少し大げさですが)。決して観賞用に整えられた庭ではありません。それどころか、親の趣味の野菜や花が、私には理解できない美的感覚で無秩序に生えています。そのおかげで、私は庭に出るのが好きです。観察してみれば必ず、心がわくわくするような発見ができるからです。

 さて、かゆみ止めのおかげで、ヤブカへの怒りもおさまってきました。庭へ行って、鳥に持って行かれる前に、甘くなったブルーベリーの実を収穫してこようと思います。

 もちろん、ちゃんと長袖の上着と長ズボンをはいて。

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