第15回小諸・藤村文学賞 中学生の部最優秀賞

公開日 2013年12月02日

最終更新日 2013年12月02日

  中学生の部最優秀賞作品です。味わい深いものがあります。

 小諸・藤村文学賞へのあなたの応募をお待ちしています。


  

浅科のおじいちゃん

長野県小諸市

川瀬 彩(かわせあや)

浅科村は佐久市になってしまったので、今はそう呼ばれていません。でも私にとっては小さい頃からそう呼びなれているので、いまでも浅科と言ってしまいます。おじいちゃん家からは、浅科中学校がよく見えます。「彩、ここからなら中学が近くていいぞ」と言われると、「そうだね。それもいいかも」と思います。

おじいちゃんは厳しくて、よく怒ります。お母さんが「私の時とは怒り方が違う。昔はもっとすごかった」と言うと「孫には嫌われたくねぇなぁ」と、おじいちゃんは笑います。私は左ききだったけど、おじいちゃんに怒られて右に直しました。でも歯ブラシは左手です。これには誰も気付かなくて、面白かったです。おじいちゃんのお手伝いをしたり、肩を揉んだりすると「すこしだけどな」と言ってお金をくれる時があります。遠慮すると「じいがくれるっていうだから、いいだっつこと。とっておけ」と怒ります。私は、月々のお小遣いは無しです。だからとっても嬉しくて、「ありがとう、おじいちゃん!」です。

今では元気なおじいちゃんも、脳梗塞で入院したことがあります。おばあちゃんに、たくさん心配をかけました。ベッドの中なのにおじいちゃんは、田んぼの心配ばかりしていて、お母さんは呆れていました。今、思うと、おじいちゃんは自分の体より、田んぼが大事だったんだよね。私達に、おいしいお米を食べさせたいから、一年たたないとお米は出来ない。水番をしたり、肥やしをまいたり、土手草を刈ったり、一番大事な時に入院しちゃって・・・。「困ったなぁ、困った」って、毎日言っていました。でもおばあちゃんを、おじいちゃんや皆で手伝って、その年もおいしいお米を食べることが出来ました。おじいちゃんとおばあちゃんが、大変な苦労をして作るお米です。だからお茶碗にご飯粒を残すと、「目がつぶれる」と言われて、小さな頃から怒られました。おじいちゃんは昭和八年生まれです。食べる物とか、物が無い時代に育ったので、食べ物を粗末にしたり、物を大事にしないと怒ります。おじいちゃん家でご飯を食べる時、おばあちゃんは「ごめんね、こんな野菜だらけのおかずしかなくて」と言います。でもね、大丈夫だよ。私はおばあちゃんの作るおかずが大好きだから。煮物はつい、食べすぎてしまいます。そんな時もおじいちゃんは「何でも残さず、いっぱい食べねぇと大きくなんねぇぞ。遠慮なんかしてねぇで、もっとおかわりしろ」と怒ります。おじいちゃん家で食べると何でもおいしいです。「皆で食べるからだ」とおじいちゃんは言います。私はお母さんと二人で食べることが多いです。おじいちゃんも、おばあちゃんと二人きりです。でも、四人で食べると楽しいね。おじいちゃんの怒り声も優しく聞こえます。たぶんおじいちゃんが、本気で怒っている事はないと思います。声の大きさや言い方が怒って聞こえるだけで、小さい頃から聞きなれてる私は怖いと感じません。

中学に入学してから担任の宮本先生が「給食の時は、ご飯を一粒も残さず食べていた」と話してくれました。その時クラスの皆が「すごい」と言って感動していました。でも、私には日常の事なので、(どうしてそんな事で感動するんだろう・・・)と、とっても不思議な気持ちでした。また、先生に一時間位説教されても怖くありません。そんな時はおじいちゃんの言葉を思い出します。「人間、くさっちゃいけねぇなぁ」と。それから先生は、生活ノートにとても厳しい事を書いてくる時があります。読んだ後、(何も分かっていない!)と思うけど、そんな時もおじいちゃんの言葉を思い出します。「人はそれぞれ、タコの足はエボエボ」と。人は違う価値観を持っている、だから「そうきたか」と思い深く考えない様にしています。中学校生活で気付いたこと。それは、おじいちゃんに怒られながら過ごしてきた日々が、とても役立っている事です。目には見えないけど、いろんな事を教えてくれていた、そう感じます。

九月、おじいちゃん家のぶどうを穫った時、被せてあった袋を破いてしまいました。すかさず「おいっ!来年も使うだぞ。ダメじゃねぇか」と怒られました。

「ごめんなさい」。今、怒ったかと思えば「彩がお嫁に行くところ、じい見てぇなぁ・・・でも生きてるかなぁ、無理かなぁ」と悲しそうなことを言います。そんな時テレくさいから笑ってしまうけど、心の中では「絶対おじいちゃん結婚式に呼ぶからね」と思っています。今はまだまだいっぱい、おじいちゃんに怒られて痛いです。

今年も、おじいちゃんが作った浅科米が届きました。新米を炊くと、まっ白でツルピカに光った粘っこいご飯が、とってもおいしかったです。おじいちゃんにありがとうの電話をすると「彩や皆が喜んで食べてくれれば、それがじいは嬉しいだ」と言います。おじいちゃんが作る浅科米は最高の特選品だと思います。そうそうもう一つ、おじいちゃんの田んぼには、たにしがたくさんいます。雨の日は、おじいちゃんバケツを持って、たにし拾ってるかなと思います。そして何日か泥出しした後は、きれいにたにしを洗って弱火でコトコト煮るんだろうな。きっと出来上がったら「彩、たにしのみそ汁作ったから食べに来い」って電話をかけてくるよね。おじいちゃんはお酒を飲みながら「いっぱい食べろ」って怒るんだろうな。その日を楽しみに待っているよ、おじいちゃん。私、たにしのみそ汁が大好きだから。そして、おじいちゃんのことが大好きだから。

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